『 涙石 』   
埼玉四号仏青会員
埼玉県美里町 光明寺副住職
        塩原 宥崇


 皆様は「涙石」というものをご存知でしょうか。この話を書くに当たってネットで簡単に調べたところ、千葉県市川市の弘法寺に涙石と呼ばれる石があるようです。

 この涙石は、石段に使われている石の中で、ある一つの石だけ一年中濡れていると言うものでした。

 私が聞いていた涙石は、ホントに小さなもので、もっとたくさんあったようです。

 小学生のころ、友達から色とりどりのきれいな米粒ほどのゴムをもらいました。その子はそれを涙石といって、「投げると涙が止まるよ」と教えてくれました。近所のおじいさんにそれを見せたところ、「偽物だな」といって本物について教えてくれました。

 第2次世界大戦中、日本の上空にもたくさんの戦闘機が飛んでいました。時には打ち落とされたり、墜落することもあったでしょう。そのときに風防ガラスが砕けて、海や川、地面などに散らばり、砂や石に削られて小さな傷がたくさんでき、角が丸くなった小石のようなもの。それが涙石だということでした。

 そのおじいさんに、昔はたくさんあったといわれ、地面をよくよく探しましたが、結局見つかりませんでした。

 情報網が発達した現代にあって、調べてもよくわからない涙石。もしかしたら、あのおじいさんとその周りだけで言われていたことかもしれません。この話を書くまでは、調べる気もおきませんでした。本物でも偽物でも、どちらでもいいと思っていたのでしょう。

 そのおじいさんも亡くなって20年近くたちますが、子供と一緒に公園で遊びながら、ふっと地面を見て涙石を探している自分がいます。手に入れたからといって、どうなるものでもないのですが、今となっては、二度と新しい涙石が作られることがないようにと願うばかりです。