WEBサイト編集委員会の田中妙和がインタビュアーとなり、
新潟県佐渡市にあります慶宮寺副住職の金子大真師にお話をお伺いしました。
 第十回 お坊さん数珠つなぎ
金子大真師
 
 



御紹介

金子大真師

慶宮寺 副住職

真楽寺 住職 

佐渡仏青

http://sadotemple.jp/keikuji/index.html




金子
 開山や開基については、詳しいことがわからないんです。一説には、大同2年(807)に快空法師の開山だと言われています。

 鎌倉時代に順徳上皇が流刑されて、佐渡に来て3人の子どもをもうけ、そのうちの第一皇女である慶子宮(けいこのみや)が生まれ育ったお寺なので、慶宮寺(けいくうじ)という名前になりました。
 
 境内には、慶子宮が産湯に使ったと言われている御井戸があります。また、慶子宮がお手植えしたといわれている鬱金櫻(うこんざくら)もあって、今では蘖(ひこばえ※)が出ています。
※蘖 樹木の切り株や根元から群がり生える若芽

  近くには一宮神社(いっくうじんじゃ)という神社があります。そこには慶子宮(島照姫大明神(しまてるひめだいみょうじん))が祀られていています。

最近、本堂の屋根の修理をして、落慶法要をしました。もともと茅葺屋根に銅板の瓦を乗せていたんですが、それが強風で吹き飛ばされました。それを建築家の先生に飛ばないよう考えて頂き、茅葺の上に銅板の屋根を作ってもらいました。元の茅葺屋根だったころの面影を残した形にしてあります。茅葺が断熱材の役割をしているので、普通の銅板の屋根より暖かいんです。

お寺の参道出口から石段を登ったところには、八祖堂(はっそどう)があります。このお堂は昭和49年に新潟県の有形文化財に指定されました。

  堂内に八角の厨子(※)があって、上層に秘仏の金輪仏頂尊(きんりんぶっちょうそん)が安置されていて、下層には大日三尊(※)と八祖(※)が祀られています。その八角の厨子は鞘堂(さやどう※)に囲まれていて、どの八祖さまも正面を向けるように回転式になっています。

※厨子 仏像・舎利・経巻などを安置する小さな堂。正面に両開きの扉をつける

※大日三尊 金剛界大日如来、薬王如来、薬上如来の三尊

※八祖 真言宗の教えを脈々と伝えてきた八人の高僧で、龍猛(りゅうみょう)、龍智(りゅうち)、金剛智(こんごうち)、善無畏(ぜんむい)、一行(いちぎょう)、不空(ふくう)、恵果(けいか)、弘法大師(こうぼうだいし)の八人の高僧

※鞘堂 建物を保護するため,その外側にそっくりおおうように建てた堂



回転式厨子
(写真をクリックすると別ページに飛びます。そちらに詳しく写真を載せています。)




金子
  佐渡のお寺には「みたま祭り」という行事があります。お檀家さんがお米を持って来て、それを炊いて、本尊さまやご先祖さまの前でごはんをいただきます。今では、お弁当を用意してみなさんで食べます。慶宮寺では春のお彼岸の入りの日に合わせてやっています。

 それと、お釈迦さまの涅槃に入られた日が2月15日なので、月遅れの3月15日に涅槃図を本堂の天井から吊るします。その涅槃図が、縦二間半、横二間の大きさもあるんです。お彼岸中までかけているので、みたま祭りに来てくれたお檀家さんにも拝んでもらっています。

 
みたま祭りでのお檀家さんの様子




田中
 高校は、和歌山の高野山高校だったそうですね?なぜ高野山高校を選んだんですか?

金子
 直前まで佐渡の高校を受けようと思っていたのですが、佐渡から出てみたいという気持ちもあり、兄も通っていた高野山高校にいってみようかなと思いました。

田中
 高野山高校と聞くと厳しそうな印象がありますが?

金子
 そこまで厳しいとは思っていなかったんです(笑)

 それまで普通科の宗教コースはあったんですが、私が入った年に初めて宗教科ができました。実際、宗教科にはお寺の子ってあんまりいないんですよ。普段の授業は普通科の生徒と同じカリキュラムで、宗教科の生徒だけ特別なカリキュラムがありました。3年生になると仏教関係の授業が少し増え、テストでは般若心経の暗記などがはありましたよ。

 それと入学するときにまだ得度していない人は得度式(出家する儀式)を受けます。なので、私は金剛峯寺と自坊で得度してるんです。

田中
 高野山高校では寮生活ですか?

金子
 そうですね、寮でした。何人かはお寺に随身(※)して通っている子もいました。寮には、普通科と宗教科もあわせて、大体200人くらいいました。高野山の下から毎日通ってくるのはさすがに大変なので、そういう生徒はほとんどいませんでしたね。

※随身 お寺に住み込みで働くこと

田中
 多感な時期に、寮生活って厳しくなかったですか?

金子
 そうですね、寮生活も随身も結構厳しいので、やめる人が多かったですね。入学から卒業までに2クラス減りました。

 それと冬は佐渡よりかなり寒かったです。これは何よりつらかったですね。

田中
 厳しい環境だったんですね。そのような高校生活の中でも一番楽しかったことはなんですか?

金子
 部活でやっていたバスケットボールですね。スポーツが強い高校だったんですよ。バスケ部も強くて、和歌山県3位までいきました。普通科のスポーツコースの生徒は午後からずっと部活をしていたんですが、私は宗教科なので放課後から参加していました。遠征にはよく行き、とくにハワイ遠征は楽しかった(笑)

田中
 その後の進路は?

金子
 そのまま高野山大学に進む人が多いんですが、自分は豊山派だったので、大正大学に行きました。次こそは東京に行きたいと思ったので(笑)

田中
 ついに上京したわけですね?(笑)

金子
 それがですね・・・(笑)大正大学には、埼玉に道心寮という寮がありまして、私がちょうど道心寮の最後の世代なんですよ。入学してから6月までの3ヶ月間だけでしたけどね。高校の寮生活に比べたら、すごく楽しかったです。豊山派の同期と仲良くなるいい機会でした。

田中
 確かに、道心寮経験者の方は、同期でとても仲が良い印象があります。

金子
 大学にいる時間も大事でしたが、同期のお寺に遊びに行ったり、お盆のご供養のお手伝いをしたりしました。そういう時間は、とても有意義な時間でしたね。他のお寺のことも勉強できてよかったです。

 大学生活の最後には、中国研修もありました。お大師さまに関係があるところを巡ったりしたんですけど、とても楽しかったです。


 
落慶法要での護摩
(左ご住職さま、右金子大真師)




金子
 大学を卒業して、檀家さんから「帰ってきたんだから拝んでくれえさあ」と言われて、徐々に継ぐ気持ちになっていきましたね。

田中
 僧侶を務める傍ら、他のお仕事もされていると伺いましたが。

金子
 はい。現在、佐渡市営の特別養護老人ホームで働いています。市営なので市役所職員です。最初は12年前に佐渡市の教育委員会で臨時職員として働いていました。4年経ったころに、「特別養護老人ホームで働かないか?」と勧められたんです。それで、働きながら介護福祉士の資格を取りました。

 週休二日のシフト制なんですが、お寺に用事ができると、休みを交換してもらって両立しています。住職がいるので、今はそうやって両立しています。

 佐渡ではお寺だけで生活していくのはなかなか厳しい。まわりのお坊さんも兼業している方は多いですよ。

 ただ、最初はこんなはずじゃなかったのに、と思うほど、仕事は大変でした。でも、お年寄りの方としゃべるのは楽しいですよ。出勤すると、「坊さん、ちょっと来てくれ」って呼ばれたりして、いろいろな話をします。

 あと、老人ホームでは珍しいのですが、施設内に仏檀があるんですよ。老人ホームなので、亡くなる方もいます。そういう方はお家に帰るので、その仏檀に仏さまはいません。それでも、利用者さんがお家にいたころのように仏檀を拝めるよう置いてあるんです。だから、私もみなさんと一緒に拝んだりします。そのあと、仏檀の前で法話をすると、みなさん喜んでくれます。

田中
 私も祖母が老人ホームで少しの間お世話になっていたので、聴いてみたかったことがあるのですが・・・施設の方がお亡くなりになり施設からいらっしゃらなくなると、そのほかの方も、亡くなったことを察してしまうと思のですが、そういうときはどのような対応をするのですか?

金子
 基本、特別養護老人ホームは、病院と連携しているので、老人ホームで亡くなる方はいないんです。しかも、規則で亡くなったことを伝えてはいけないことになっています。でも施設の方も大体わかりますよね。

 切ないんですけど、施設の方は「うらやましいわ。早く私のところにもお迎えに来てくれんかな」と言うんです。でも私は、「あかんよ、あと80年は頑張らんといかん。私、坊さんだから、電話でつながっているからわかるんだよ。予約が取れてないし、まだ頑張れや。」って冗談ばかり言っています(笑)

田中
 いいやり取りですね(笑)

金子
 やっぱり笑顔でおってもらえるのが一番なんで。

 あと、少し困るのが、私がお坊さんだと知っているので、トイレに一緒に行ったりすると「そんなこと坊さんにはさせたくねえ」って言うんですよ。「申し訳ねえ申し訳ねえ」って。そういう時も「ここで働かないでサボっていて、次に出勤した時にタイムカードがなくなってたら、困るだろう!?」って冗談を言っています(笑)

田中
 そういう冗談を言われて笑っていられることが、お年寄りの元気のもとになっているんでしょうね。



ご本尊大日如来さま


金子
 不便なところが多いんですけど、その不便さがいいんですよね。その分、人の温かみがわかります。「野菜ができたから、食えやあ」と野菜を持って来てくれたり。そういうことがたくさんありますね。

 自然が多いので、佐渡に帰って来てから、アウトドアな趣味が増えました。今はやってないですけど、サーフィンとか。波がある冬にやるといいですよ。昔は、仕事行く前にサーフィンをして、仕事のあとにはスノーボードに行ったりしていました。

 夏はマリンスポーツをする場所があるので、海にもぐりますね。あと、バイクに乗ると楽しいですよ。

 毎年9月にトライアスロンの大会があって、結構全国から人が集まってきます。この間は東野幸治さんが来ていました。島一週ぐるっと、走って、泳いで、自転車に乗って。佐渡一丸となってボランティアで運営してるんです。その日は、みんなできるだけ車は使わないように気をつけたり、道には「頑張れ〜!」っておばあちゃんが籏を振っていたり、給水所の手伝いに行ったりします。大自然を感じられると思うので、興味のあるかたはぜひ来てください。

田中
 佐渡独自の文化などはありますか?

金子
 佐渡には他にも鬼太鼓というのがあります。

 私は一宮神社で鬼太鼓をやっています。鬼太鼓というのは、各氏子の家にまわって庭先などで、太鼓を打ち鳴らしながら、それに合わせて鬼と獅子が舞います。鬼を宮に入れないように、獅子が押し返すという内容の舞です。

 家内安穏、無病息災を祈りながら、邪気を払います。あと、獅子が子どもの頭をかむと「頭がようなる」っていう意味があるんですけどね。お年寄りにも「頭かんでくれ」って言われたりします(笑)

 鬼太鼓のはじまりの歴史にも諸説あって、相川の金(※)を掘っているときの遊びがなくて鬼太鼓がはじまったという説もあれば、元々神様を守るために行われていたという説もあります。歴史の先生方によって解釈が違うんです。

※相川の金 江戸時代に金脈が発見され、最盛期には金が年間400トン採掘され、世界最大の金山とされていた。

田中
 大体何人くらいの方が参加するのですか?

金子
 私たちは一宮神社宮青年というんですが、大体14,5人ですかね。自分はお寺の者なんですけど、出るのが好きで参加してます。住職には「出るな」と言われていますけどね(笑)でも住職も神社の祭典には呼ばれていて、自分が住職になったら、そっちで出なきゃいけなくなってしまいます・・・寂しいです(笑)

田中
 それは残念ですね(笑)何軒くらい回るんですか?

金子
 ここは100軒くらいですね。

田中
 100軒!?すごい数ですね。

金子
 もっと件数が多い地域は二手に分かれたりして、回るそうです。街のほうだと600軒くらい回るので、夜中の0時に出て、終わるのが次の日の夜中の0時くらいになるそうですよ。

田中
 どこの地域にもあるんですか?

金子
 大体ひとつの地区にひとつの団体がありますね。今は100団体くらいあるんですけど、昔は200団体くらいあったそうです。いろんな流派があって、団体によって踊りの仕方や太鼓の叩き方など違いがあるんです。激しいところもあれば、おとなしいところもあります。

田中
 そうしたらいくつかの団体で叩くことは難しそうですね。

金子
 そういう地域もあるんですけど、お互いにかき消すくらいに打つので、打ち合いになって、喧嘩みたいになっています(笑)

 それと、2012年に東京丸の内で、JAPAN ALL INという日本の伝統文化を紹介するイベントに出たんです。動画がインターネット上にも載っているので「JAPAN ALL IN 鬼太鼓」と検索して、ご覧になってください。



鬼太鼓



田中
 本堂の入口にちいさなブランコが置いてありましたけど、あれはお子さんと一緒に遊ぶためのものですか?

金子
 あれはうちの子どもが遊ぶためじゃないです。佐渡だと法事を大体家でして、そのあとに寺参りに来るんです。そうすると、子どもはしゅんとしてるんですよね。妖怪ウォッチじゃないですけど、お化けがでるんじゃないかって怖がっていたりして(笑)だから、子どもが遊べるものを置いて遊んでもらえれば、もっとお寺に来てくれんじゃないかなと思っているんです。

 そうすると、お子さんのお母さんお父さん世代もお寺に来やすいじゃないですか。若い人の寺離れが進んでいるような気がするので、そうやって少しでも足が向いてくれるといいなと思って置いています。

 それと、元気に遊んでいる姿を、本尊さまやご先祖さまにも見ていただけたらいいなと思っています。

田中
 お休みの日はお子さんと一緒に遊んだりしているんですか?

金子
 そうですね、自分の趣味はだいたいなくなりました(笑)子どもと一緒に遊ぶのが趣味です。バイクの後に乗せて境内走ったり、一緒に勤行したりしています。

田中
 お子さんにはどんな人になってもらいたいですか?

金子
 誰にでも優しくできる人になってほしいですね。でも、兄弟3人もいると喧嘩が絶えないですけど(笑)

 それと、佐渡だけじゃなく、社会全体のルールを学んでもらいたいですね・・・例えば電車の乗り方とか。佐渡におったらわからないです、電車がないですから(笑)



 
お子さんと一緒に読経



金子
 楽しそうなところ(笑)よく言われるんですよ、「楽しそうな顔してるなあ」って。いつも笑顔でいるように何事にも一生懸命楽しむよう気を付けています。自分が楽しそうにしていれば、きっとまわりの方も楽しくなれると思うので。そういう、周りが笑顔になれるようなお坊さんでいたいですね。

 

山門から見た本堂
  お伺いした日はあいにくの雨でしたが、佐渡へのフェリーで揺られたり、自然の中にたたずむお堂を参拝させていただいたりと、とても日常ではできない経験をさせていただきました。
 そんな佐渡の魅力も合わせて教えてくださった金子大真師、本当にありがとうございました。
 とても綺麗な境内と、歴史のある建造物のあるお寺ですので、佐渡にご旅行の際には、皆様もぜひ一度足を向けてみてください。