第6回はWEBサイト編集委員会の青木宏憲がインタビュアーとなり、
千葉県木更津市にある光福寺副住職の守祐順師にお話を伺いました。
 第六回 お坊さん数珠つなぎ
守祐順師
 
 



御紹介

守祐順(もりゆうじゅん)
1975年(昭和50年7月25日)

光福寺(こうふくじ) 副住職

能蔵院(のうぞういん) 住職

総合研究院現代教化研究所 常勤研究員

光明編集委員




光福寺について

 開山の正確な年代については不明ですが、江戸時代前半にはあった寺で、現住職(父)が28代目です。

 房総(千葉の南部)の人々は、江戸に行くのに、この寺のすぐそばにある宿屋に泊って、翌朝、船で江戸に向かったそうなんです。この辺りは江戸時代、交通の要衝だったと聞いています。

 それから「木更津甚句(きさらづじんく)」という民謡を広めた落語家の木更津亭柳勢(きさらづていりゅうせい)さんは、このお寺の墓地に眠っています。時々お好きな方がお参りしたいとおいでになりますよ。

 江戸時代の津波が、裏山の3分の1くらいまで来たという伝えも残っています。記録というより伝えなのが、お寺のすごいところですよね。


能蔵院について

 同じく確かな年は分かっていませんが、やはり江戸時代にはありました。

 ここは春になると、住職自ら言うのも何ですが、屋根の緑色と桜の薄紅色のコントラストが、なかなか見事です。「お花見させて下さい」って人が来たりする。いわばお花見の穴場でしょうか。

 今の本堂は40年前に建てられました。その当時、設計図を貸して欲しいっていう、他の宗派のお坊さんが見えたんだそうです。そして結局、まったく同じ図面で本堂を建てたとのこと。ここから1時間ちょっとかかるらしいんですが、是非見に行ってみたいと思っています。
 
門前から見た光福寺




守 :
 葬儀や法事はもちろん一生懸命お勤めしていますが、それ以外には3つあります。

 まずは、お寺を身近に、そして文化の発信基地にする挑戦です。「おてらのわ」という会の名前をつけました。と言っても写経が中心の会です。

 次に現代教化研究所の研究員としての活動です。お釈迦さまの時代、お大師さまの時代には無かったかもしれないけど、今起きている問題を扱います。例えば、臓器移植・災害対策・宗教に関する世論調査分析なんかを扱う研究機関と言えば、イメージしやすいでしょうか。問題を整理して、宗派内のお坊さんに、検討の視点を提供するのがお役目です。

 そして、宗派の教化誌『光明』の編集です。お正月やお盆は約40万部も発行されています。この宗派の公式であって、部数が多い。この企画、取材、執筆、校正の責任は重大だと気を引き締めながら臨んでいます。

青木:
 「おてらのわ」では様々なイベントを企画していると聞いていますが。

守 :
 盆栽体験、料理の会、日帰り旅行、裁判員制度勉強会などなど。思い返せばずいぶんイベントを開催してきました。

青木:
 私も参加をさせて頂きましたが、多種多様ですね。

守 :

 そうですね。裁判員制度が始まるときに弁護士さんに話をしてもらい、東日本大震災1ケ月後には、お檀家さんの放射能の専門家の方に話をしていただきました。できることなら、その時々の話題を早く取り上げたいですね。僕も知りたいですし。

青木:
 イベントのゲストや講師は、お檀家さんですか。

守 :
 お檀家さんは放射能の専門家の方だけですね。弁護士は同級生で、盆栽体験会の講師はフットサル仲間です。第3回の「数珠つなぎ」に登場した粕谷隆宣さんは大学院の先輩で、何度もお話しにおいでいただきましたよ。
 そう、時々テレビにも出る有名なシェフが、たまたま近所にセカンドハウスを建てられました。そうしたら、この会の参加者が仲良くなって、講師で料理の話をしてよってお願いしてきてくれました。僕の知らないところでも段取りが進みました(笑)。

 特に決めた訳ではないけれど、ここ数年1月は音楽の会になっていて、太鼓、笛、津軽三味線、ギターなどなど、プロの演奏家をお呼びしています。ありがたいことに津軽じょんがら節日本一“とか1年先までスケジュールが埋まっている篠笛奏者”においでいただくことができています。この日ばかりは田んぼと山に挟まれた本堂に、すごい音楽が流れるんです。1番人気のイベントですね。

 あとは座禅や精進料理を勉強したいとリクエストが出て、禅宗の友人をゲストにお願いしたこともあります。私との対談する形をとって、真言宗と禅宗の共通点とか違う点を話したり、質問しあったりもしましたね。

青木:
 ゲストを呼ぶ以外のイベントはありますか。

守 :
 年1回の納経法要と日帰り旅行です。去年、スカイツリーのオープン3日目に行きました。半年前から進めた一大企画でした。プラチナチケットなんてテレビで流れるから、普段は15人ぐらいの会が、大型バスの補助席まで埋まって45人!オープンして初めて晴れた日だと言われて、いつも写経しているご利益だってみなさん盛り上がって、喜んでくれましたね。

 もちろん毎月イベントではありません。半分以上は写経の会です。始める前に20分のお話の時間をとって、資料を配ったりパワーポイントを使って、本尊さまのお話、長谷寺の話、お大師さま、お盆やお彼岸の話をしています。年に一度、写経を正式に納める法要をします。

青木:
 そもそも、この会を始めたきっかけはなんですか。

守 :
 10年前に、古田さんという相方と2人で始めました。大学院を出て、宗派の研修機関も終えた後、何かしなくてはいけないねって2人で話をしていたのがきっかけですね。
寺離れや仏教離れといわれ始めていた時でもありました。法話の会でも、写仏の会でもよかったけど、文字を書くというベーシックなところで写経に決めて・・・。

 第3木曜、金曜の2日間、お互いに行き来して、2つのお寺で同じことをやろうと決めました。1人よりも楽しく運営できそうだし、長続きしそうだしってことで。
 
 始めるにしても2人ともノウハウが無かった。だから共通の先輩を訪ねてやり方を聞いたり、たくさん話し合いました。助け合って、教え合あって、ダメ出しもし合って(笑)。当初は、お話の中で冗談を言っても、なかなか笑ってもらえなかった。今日もダダスベリだったねなんて(笑)。

青木:
 写経だけじゃなくて、何かイベントがあるとお寺に出かけやすくなりますね。

守 :
 信心深くというよりも、まずはお寺のお茶を1杯でも多く飲んでもらいたいですね。この会のコンセプトは「お寺を身近に」です。
 
 お坊さんでさえも、近所の他宗派のお寺には散歩に行きにくい、足を踏み入れたことが無いなんてことをよく聞きます。実は私もそう感じるひとりです。これが一般の方々と同じ感覚であり、忘れたくない感覚です。

 ですので、檀家さんには、お寺に気軽に行けると思ってほしいし、お茶を1杯でも多く飲んでもらいたいです。そして文化とか、近所のコミュニティとか、お寺の仏事以外の側面を感じて欲しいですね。

 実は今、月に1度、第3木曜日の昼間に開催しているのを、変えてみようかなと検討中です。年に数回程度に開催を減らすけども、曜日と時間帯も変えて、おいでいただける人は、子どもや平日は働いている方までに、ぐっと広がるといいなと思います。
   
 
お寺での料理教室




守 :
 小さい頃から自分を可愛がってくれた近所の人が亡くなる。お坊さんのほとんどが経験することです。よく知っている人を送らなくてはいけないのはつらいですよね。でもそれは重大なお役目だと思って、その都度一生懸命にお勤めしています。

 こんな方もいます。若くして奥さんに先立たれた旦那さんが、しばらく家に籠りっきりだった。写経に来るといって1年ちょっと欠かさず参加して、「おかげさまで心の整理がついてきた。社会復帰することにしました」と言ってきた。
写経には来なくなったけど、今はデーサービスの運転手としてがんばっています。この経験は嬉しかった、まさにやっててよかったと思った瞬間です。
 
水子地蔵



守 :
「ナイスプレー!」(笑)
 フットサルを時々するんです。7〜8年やってるけどまったく上手くならない。センスがないんですねぇ。それでも時折マグレがあると仲間が褒めてくれる。これがうれしい(笑)

 冗談はさておき、言われてうれしかったのは「気さくなお坊さんですね」とか、「話しやすいお坊さんでよかったです」とかですね。

青木:
 そういうお坊さんを目指していたのですか。

守 :
 学生のころは意識していましたが、最近は必要以上に気にしなくなりました。
 でも常に空気を感じられるように心がけています。

 
インタビューの様子(手前:守師、奥:青木委員)




 「願わくは我菩提心を失わず」
 (ねがわくは われ ぼだいしんを うしなわず)

守 :
 ある時、お経本を眺めていたら「願我不失菩提心」という一句が目に止まりました。
 菩提心をひと言で説明するのは難しいですが、敢えて日常の日本語に当てはめるなら、向上心かなと思います。人間的な向上心でも、仏教的な向上心でも、その心を失いたくない、そんな言葉と解釈しています。

 そこの床の間の掛け軸は住職(父)が不定期に掛け替えるんですけど、たまたま、その言葉が掛かってますね。これは実は僕が書道を習っていたころに書いたもの。恥ずかしいからやめてほしいんですけどね。決してこのインタビューに合わせて出したんじゃなくて、本当にたまたまですよ(汗)。


守師筆の掛け軸




守 :
 丸1日のお休みは、ほとんどありません。お坊さんは大抵の方がそうでしょうけどね。

 色々なお坊さんがいますが、僕はパソコンの前で仕事をしている時間がすごく長い。お役目上、文章を書いていることが多いんです。
 だから時間があれば外に出たくなる。ガーデニングをしたり、日帰り温泉に行ったりかなぁ。

 あと時間があれば1人でこっそりギターやピアノを弾いたりして、気分転換をしていますね。人前では弾きません、こっそりです(笑)。
 
こっそりピアノを弾く守師


守 :
 お坊さんで尊敬する方はもちろんいます。心からすごい方だなぁって思う。でもここで○○さんですって言っても分からない…。好きな芸能人だと、所ジョージさんかな。やわらかくて自然体で、羨ましくさえある。
 
 文章を書くことが多くなっているせいか、最近物書きの人を、今までとは違う視点で見るようになってきました。
 
 三谷幸喜さんは本当にすごいと思う。あの展開と笑いの数、そしてちゃんと感動が待っている。僕の中では『有頂天ホテル』が一番です。

 あと宮藤官九郎さんもすごい!NHKの「あまちゃん」は毎朝楽しみで、こんなに朝ドラを見るのが日課になったことはありませんでした。コメディタッチのドラマが好きなのかもしれないですね。
 
綺麗な中庭




守 :
 地区の会長を一昨年退任して、最近はフォロー役になってきて、少し客観的に見られるようになってきました。
 
年配のお坊さんではなく、若いお坊さんだからできること
1人ではなく、大人数だからできること
宗派ではなく、青年会だからできること
 を意識して、積極的に活動する。

 これが仏青の役割かなぁと、自分の役員任期が終わって、最近そんなことを思い始めました。
 若い僧侶が大勢集まる勢いと、実行力は素晴らしい。もうしばらくフォロー役を続けさせてもらいます。一緒にがんばっていきましょう! 
 
  

 守祐順さん、大変御多用の中、貴重なお話をありがとうございました。
 皆さんのお住まいの地域でも、守師のようなお寺があるかもしれません。ぜひそんなお寺を見つけたら、遊びに行ってみてください。